心理学が日常の中で活かすことのできる学問として知られるようになり、さまざまなところで取り上げられるようになりました。恋愛における心理テクニックやビジネスマン向けの営業テクニックなどについて見聞きしたことがあるという方も多いのではないでしょうか?ちなみに、こういった心理テクニックは社会心理学というものに分類されます。人が社会で物事や人間関係を円滑に進めていくための心理学ですね。
今回は心理学の中でもアドラー心理学を取り上げ、子育てに応用できるポイントを解説したいと思います。
そもそもアドラー心理学とは
最近では、心理学の中でもアドラー心理学というものが注目を浴びています。きっかけとなったのは、ご存知のように「嫌われる勇気」という書籍でした。アドラー心理学をわかりやすく解説した書籍なのですが、爆発的に話題となり、舞台化、ドラマ化までされています。インターネット上にもアドラー心理学についての記事はとても多く見られるようになりました。
そんなアドラー心理学なのですが、その名前の通り、アドラーという人物によって作り上げられた心理学になります。アルフレッド・アドラーは、オーストリア出身の精神科医であり、心理学者でもあり、また社会評論家でもありました。心理学といえばジークムント・フロイトが有名ですが、そのフロイトと共同研究をしていたこともあります。
アドラー心理学というのは、アドラー自身が歩んできた人生が反映されている学問でもあります。というのも、アドラーが生きていた時代というのは現代と違って「科学的に証明する」「科学的に検証する」といったことは主流ではありませんでした。当時の心理学というものは、なんとなく雰囲気で社会に認められているような部分もあったのです。もちろん、だからといってアドラー心理学がなんとなくの雰囲気で認められていたわけではありません。その当時の人や社会に大きく影響を与えたからこそ、今もなおその存在感を放っているのです。実際に、アドラー心理学は現代の心理学にも大きな影響を与えていますし、よく知られている心理療法などもアドラー心理学があったからこそ確立したといっても過言ではないのです。
アドラー心理学におけるポイント
アドラー心理学と一口にいっても、その内容というのはとても幅広いものです。簡単に一言でまとめられるようなものではありません。そのため、ここではアドラー心理学における重要なポイントについてお話ししていきたいと思います。
目的論
まずは、目的論という考え方についてです。目的論というのは、人の行動には目的があるという考え方になります。「当たり前じゃん!」と言いたくなる方もいるかもしれませんが、例えば、今「なんとなくやる気が出ないんだよね~」といった言葉を漏らしたときにこの行動に目的があると思いますか?おそらく「目的なんてないでしょ」と答える方がほとんどかと思います。ですが、アドラー心理学ではこういった行動にも目的があると考えるのです。それが目的論なのです。
アドラー心理学では、なんとなくやる気が出ないのではなく、やる気を出さないという目的のためにそういう行動をとっていると考えます。よく使われる例としては、「変われない」のではなく、「変わらない」という決断を自分でしているという表現が挙げられます。つまり、どのような目的に向かっているかによって、人の考え方や行動というのは変わってくるのです。
課題の分離
次に、課題の分離というものもアドラー心理学では重要なポイントになってきます。課題の分離というのは、簡単に言ってしまえば自分の課題と相手の課題をわけて考えて、相手の課題には介入しないということです。
自分の問題ではないのに、自分の問題のように考えてしまうことはありますよね?例えば、小説を読んでいて主人公に感情移入しすぎてしまって、主人公のこれからのことが頭から離れず家事が手につかない・・・この状態はまさに自分ではない相手の問題をまるで自分の問題のことのように考えてしまっている典型的なパターンです。自分の人生のことだけでも大変なのに、誰かの人生まで抱え込んでしまうというのは決していいことではありません。
自分の課題と相手の課題を分けて考えることによって、お互いがいい状態でいられるのです。相手に踏み込み過ぎないようにして、自分も踏み込まれ過ぎないようにする・・・人間関係はある程度の距離感があったほうがいいとされていますが、まさにこのアドラー心理学の課題分離がそれを物語っているのです。
劣等感
続いて、劣等感です。劣等感というと悪いもののように感じてしまう方もいるでしょうが、アドラー心理学においては自分の理想に向かっていくための刺激だと考えます。理想に達していないからこそ劣等感を抱くのですから、その劣等感をバネに理想へと近づいていけばいいのです。
共同体感覚
そして、最後に共同体感覚というものについてです。共同体感覚というのは、文字通り、自分が共同体の一部であると感じることです。家族の一部、社会の一部という感覚を持つことによって、上下関係などなしに、相手をひとりの人間として認められるようになり、尊重することができるようになるのです。
アドラー心理学を子育てに応用してみよう!
アドラー心理学のポイントについてお話ししましたが、では今度はこのアドラー心理学を子育てに応用してみましょう。「無理無理!難しい!」という方もいるかもしれませんが、子育てにアドラー心理学を応用するのは難しいことではありません。
例えば、先ほどお話ししたアドラー心理学の課題の分離を子育てで考えてみましょう。課題の分離というのは、自分の課題と相手の課題を分けて考えることでしたね。実は、この課題の分離は子育てにおいてとても重要なポイントになってきます。というのも、親御さんとしては無意識のうちにしてしまっているのでしょうが、お子さんの問題を自分の問題のように考えてしまうことが多いのです。
受験のときにお子さんが勉強をしないからといって無理に勉強をさせる、難しい学校を受験させる・・・こういったことはよくあるケースでしょう。こういったケースにもまさに課題の分離が必要になってくるのです。勉強をするのもしないのもお子さんの問題ですし、どのような学校を受験するのかもお子さんの問題です。ここで親御さんの希望を通していたのでは、お子さんは「親の決めた道を歩むのが人生だ」と間違った学習をしたまま成長してしまいます。お子さんは親御さんとはまったくの別人格です。それを意識して、ある程度放任することも正しい成長には必要でしょう。
また、失敗しても大丈夫だという勇気付けもアドラー心理学から学ぶことができます。アドラー心理学における劣等感というのは、理想に近づいていくための刺激です。お子さんが劣等感を抱くときというのは、やはり何かに失敗してしまったときです。ここでは、親御さんが一緒に落ち込んでいたのではいけません。
失敗したときにこそ、失敗しても大丈夫だという勇気付けが重要になってくるのです。アドラー心理学が注目されるきっかけになった「嫌われる勇気」に通ずるものがありますね。特に、最近の親御さんというのはお子さんが失敗してしまうことやその失敗によって傷ついてしまうことを極端に恐れ、避けてしまう傾向にあります。しかしながら、失敗のない人生というのはあり得ません。親御さん自身も人生の中で何度も失敗を経験してきたはずです。だからこそ、本当は失敗が人を成長させることも知っているはずなのです。
アドラー自身も無理だと思ってもやらせること、それで失敗しても「今度はうまくできるはず」と声をかけることが大切だと言っています。また、アドラーは「失敗ばかり」ではなく、「たくさんのチャレンジをしている」のだという言葉も残しています。お子さんの失敗に対して臆病になってしまっている親御さんは、こういったアドラーの言葉を常に頭の中に入れておきたいものです。
そして、アドラー心理学の共同体感覚も子育てに応用することができます。共同体の一部であるという感覚を大切にして、上下関係など関係なく、相手を対等な存在として尊重していく・・・これを子育てに取り入れると、これまでに当たり前のようにおこなってきた「褒める」「叱る」という行為ができなくなります。というのも、褒めるのも叱るのもそこに上下関係が発生してしまうからです。
「褒める」「叱る」という行為は、親御さんがお子さんに対して上から評価をしているという状態なのです。つまり、無意識のうちにお子さんを採点してしまっているのです。当たり前のように多くの親御さんが褒めたり叱ったりという行為をしているのですが、これによってお子さんは褒められることを目的にしてしまうのです。
では、褒めることも叱ることもしないとなれば、親御さんはどのように接していけばいいのでしょうか。これは本当にシンプルで、対等な人間として親子として、感謝の気持ちを伝えればいいだけなのです。親という上からの立場で評価や採点をするのではなく、同じ目線に立って感謝をするのです。そうすれば、お子さんは褒められることを目的とすることもなくなりますし、自己肯定感というものを得られるので、それが自信につながってきます。
このように、アドラー心理学を子育てに応用していくと、それまでの子育てからガラリと変わってくるようになります。親御さんの考え方が変わるだけではなく、お子さんとの関係も変わってくるでしょう。是非、アドラー心理学を子育てに応用してみましょう。